運送・物流業界にとって、トラックドライバーの人材不足は長年の課題です。中でも、特に若手の雇用・育成は、早急な推進が求められています。現時点での課題を踏まえながら、未来のドライバーに訴求できるアクションを検討しました。
意見交換会の参加者
- 国広 和之会長(一般社団法人 山口県トラック協会)
- 毛利光 伸二専務理事(一般社団法人 山口県トラック協会)
- 田中 幸久課長(国土交通省中国運輸局自動車交通部貨物課)
- 藤井 利佳支局長(国土交通省中国運輸局山口運輸支局)
ー前回は、心身ともにドライバーさんをケアするためのアプローチについて意見を交わしました。働きやすさなどの実態も発信していくことで採用にも繋げられたらいいですね。
毛利光 伸二専務理事(以下、毛利光):私たちとしてはやはり、トラックの日を活用して採用に繋げていきたい想いがあります。トラックも止まっているだけでは置物のように感じるでしょうから、動く様を体感していただきたいなと。
田中 幸久 中国運輸局自動車交通部貨物課長(以下、田中): ゲームセンターにトラックの運転席を模したドライブシミュレーターがあったら、フロントガラス越しに見える風景など疑似体験できて面白そうです。
ーVRのような最新テクノロジーとも親和性がありそうですね。
田中:カーブの切り方を間違えると路肩に擦ってしまうとか、「内輪差!」と警告が出るとか。エアブレーキの感覚などもリアルに体験できたら「トラックって楽しい!」と思ってもらえそうですよね。
藤井 利佳 中国運輸局 山口運輸支局長(以下、藤井):バスの運転士の体験会では、現役の運転士が横について運転体験をさせていますね。
国広 和之 山口県トラック協会会長(以下、国広):高校の出前授業に行ったときには、ウィング車の開け閉めと、ゲート(トラックの後部に取り付けられた昇降装置、パワーゲートともいう)の上下を見せました。
※イメージ写真
毛利光:私としてはやはり、ステアリングを経験してもらいたいですね。
田中:我々も研修の一環で自動車メーカーのテストコースにお邪魔してトラックを運転させていただいたことがあります。普通免許で乗れる範囲の車でも、乗用車よりは全然大きいし、コースを一周してもらうだけでも、大きな経験になります。コースだから辛うじて1周回れるけど、普通の道路のカーブなんてとてもできないと思ってしまいますし、エアブレーキの感覚も全く異なります。やってみないことには分からない世界ですよね。
毛利光:実際には助手席も含めたら3人乗れるので、ドライバーの隣に乗せてもらうだけでも全然見方が変わると思うんです。
田中:トラックの運転席から見た景色をYouTubeで公開している人もいますね。こんな景色が見えるのなら、自分もやってみたいと思う人もいるでしょうね。
藤井:専用のゴーグルをつけて見る360°動画を公開するYouTuberもいますね。
ーGoProのようなハンズフリーのカメラでドライバー視点の撮影動画も見てみたいです。
国広:Truck Heroesで、当社のトラックをドローンで撮影してもらいました。カッコよく仕上がっていますよ。
田中:この光景で運転したドライバーさんはこの人です、と紹介するコンテンツも良いかもしれませんね。トラックに対してステレオタイプなイメージを抱かれがちなので、一般の人になかなか訴求できていないことも課題だと思います。どうすれば伝わるのか、意見を募ってみてもいいかもしれないですね。
一度、トラックドライバーがどのように見られているか、ネット上で調べてみたら「安全マナーを遵守している」とか「道を譲ってくれた」とかポジティブな意見が多くありました。
横の繋がりを大事にしてくれるドライバーさんも多いですよね。初めてその現場に搬入に来るドライバーさんに対してGoogleマップで「ここは気を付けた方がいいよ」と共有したりして、仲間想いだなと感じます。
国広:そうですね。運送事業者同士だからライバルのはずだけど、結構仲がいいんです。
ー私たち一般生活者が接するのは、宅配業者が多くなりますよね。国広倉庫運輸さんのように、ある部門に特化している事業者さんの存在を知らないと、特に若い人から見て、トラックドライバーのイメージが限られたものになりそうです。
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国広:出前授業で「トラックって何を運ぶんですか?」と訊かれて、「君たちの目の前に見えている全てのものだよ」と答えたことがあります。何でも運ぶんです。
当社であれば、コピー機を運ぶ部隊は精密機械の取り扱いも熟知しているし、コピー用紙やトナーを運ぶ部隊は 客先で交換もします。人様の会社に上がるのだからマナーもちゃんとしていますし、ステレオタイプな「トラックドライバー」とは違う人もたくさんいるんです。
藤井:そして、そのようなサービスや特殊技能はちゃんと価格で補填しなくてはいけませんよね。
毛利光:それなのに、どうしても「いかつい」とか「こわい」とか「荒い」イメージを持たれているんですよね。
藤井:女性のドライバーも増えてきていますよね。
国広:大きな荷物ほど、手で触らないんですよ。たとえば10トン車に1000ケース積んで、手で下ろすことなんてありません。パレットを使うので女性でも全く心配ありません。
藤井:男性よりフォークリフトの操作が上手いという女性ドライバーも以前テレビで見ました。社会全体では女性の就業者数が増加しており、女性のトラックドライバーがネット上で紹介されているのもよく見かけます。とはいえ、トラックドライバーの女性の割合は3.4%に留まっていますが。
とはいえ、女性の割合は3.4%に留まっています。
先日お話したバスドライバーの人材確保の事業の受託事業者の代表は、女性バス運転手という団体の代表でもあるのですが、女性のバスドライバーの採用が多いところは、路線バス会社に女性ドライバーが多い地域だそうです。子どもの頃から女性の職業として普通に見かけている。そうでなければ、女性があんな大きな車を運転するという認知に繋がらないのでしょうね。
そういう意味では、トラックドライバーの女性をクローズアップしていけば、女性の採用も増える余地があるのではないかと思います。
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田中:たとえば、豊洲市場って一般人が見学できるコースがありますよね。物流業界も商品など機密事項の多さゆえになかなか一般人が見ることができませんが、高い位置から物流が見える構図の建物にしたら、一般人が接点を持てるきっかけにもなると思います。物流施設を管理している企業の中には食堂を解放していて、物流を見える化する方向に力を入れているものもあります。
ーNHKの「ドキュメント72時間」みたいな番組で特集されたらすごく面白そうです。
田中:私たちも仕事として物流センターなど現場に入らせてもらって、担当者に会うことができるので、会話することによって色々な知識をいただいて勉強させてもらっています。現場は専門用語も多いし、仕組みも複雑ですからなかなか分からないことだらけです。それでも物流センターの拠点に入ると、見えるものが全く違います。こうやって、一般の人にも少しずつ物流の姿が見えたら身近に感じられるのではないかと思います。
(text by Yuka Shingai)