物流業界の「2024年問題」にまつわる意見交換会では、価格交渉やDX、ウェルビーイングなど、様々なトピックについて議論を交わしました。最終回となる第8回では、今一度強く伝えたい想いや、これからにかける想いなどをヒアリングしました。
意見交換会の参加者
- 国広 和之会長(一般社団法人 山口県トラック協会)
- 毛利光 伸二専務理事(一般社団法人 山口県トラック協会)
- 田中 幸久課長(国土交通省中国運輸局自動車交通部)
- 藤井 利佳支局長(国土交通省中国運輸局山口運輸支局)
ーここまで、多様なテーマについて意見を交換してきました。この場を代表する立場として、毛利光専務から、今後に向けての展望を聞かせていただけますでしょうか。
毛利光 伸二専務理事(以下、毛利光):トラック協会として何ができるのかを常に考えています。春先に、高校で新1年生に向けた出前授業や、トラックの日をうまく使うと同時に、切り口を変える、見てもらうことが必要かなと感じています。
田中 幸久 中国運輸局自動車交通部貨物課長(以下、田中):人材不足とはいえ、トラックドライバーを含む道路貨物運送業従業者数は全国に約80万人いるわけですから、実際は身近にいるはずなんですよね。ああいう大人になりたいと思える見本が身近にいることで、職業選択の一つと思ってもらえることが理想ですよね。
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毛利光:なかなか業界全体として情報発信ができていないと思います。出前授業だとついつい小難しい話をしてしまうので、もっと皆さんが前のめりになってくれるようなことをしていかないといけないですね。
そのような場に若手ドライバーに率先して出てもらいたいのですが、みんな結構シャイで喋るのも不得手なので痛しかゆしです。かといってこちらが押し付けることでもないので、たとえば就職説明会などのブースを出すにあたって、一緒に考えようと言ってくれるような声が今は欲しいですね。
やはり積極的にやりたい!と思ってくれる人に来てほしいですし、18歳未満の方にどうアプローチしていけばよいのか、工夫していかないといけませんね。
ー運送事業者として、国広会長の意見を聞かせてもらえますか?
国広 和之 山口県トラック協会会長(以下、国広):とにかく「人」につきますね。規制緩和によるダンピング、リーマンショックだ、失われた10年だとこれまでも言われてきましたが、それでも3年から5年で元に戻ってきています。ただし、人口に関しては13年も連続で減りっぱなしなのだから、もう戻りません。今を耐え忍んだらそのうち直る問題でもないので、今のうちから、今後の方向性を決めて対処しなくてはいけませんね。
今後、うちの業界だけに人が来る状況も考えられないので、どう生き延びていくか荷主と話し合っていくことが必要です。金銭面だけでなく無駄を削減して、安定して平準化したオーダーに向けて話を詰めていかないと、不必要にトラックが動いている状態では解決できませんから。
もう一つは協業化ですね。自社でできることには限界があるので、横の繋がりを強化したいです。それもシステム頼みにするのではなく、ヒューマンネットワークや地域ならではの取り組みも重要です。2024年問題を契機に行政が深く入ってきてくれたので、お客さんとの距離が縮まっている今がチャンスです。この時期に動かなくてはいけませんね。
ーまさに行政からの働きかけが起点となっていますよね。田中課長、藤井支局長から伝えたいメッセージはありますか?
藤井 利佳 中国運輸局山口運輸支局長(以下、藤井):なかなかすぐには解決しない問題が多いものの、荷主、そしてその先の消費者に「流通にはコストがかかります。インフラなんですよ」ということをどれだけ浸透させるかが一番の課題かと思います。DXや自動運転の議論が進んでも、当面はトラックで繋いでいく必要があります。
支局は県単位の機関ですから、この地域においてどのような見せ方が人に刺さるのかアイデアを出し合いながら、人材確保について引き続き取り組みを続けていく予定です。最終的には賃金に反映できるような待遇改善に繋げていきたいですね。
また、一足飛びに制度が変わるわけではありませんが、このような会合や、トラックGメンの活動を通じて、ドライバーや経営者の声を聞き、本省など中央に届けることで、より使いやすい制度へと見直しもできるかもしれません。現場の意見をしっかり聞くことが私たち支局の使命かなと思います。一緒に頑張っていきたいです。
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田中:身近なお手本となる大人がドライバーであることが、一番呼び水として効果的だと思います。ドライバーを特別なものとして紹介するのではなく、遠い存在ではないことを伝えたいですね。普通の大人で身近にいるんだよ、その人たちがすごいことをしているのだよと。
ドライバーの確保を意識されている運送事業者さんも多いと思いますが、ニーズに応じて労働時間をフレキシブルにすることで高齢のドライバーさんを継続して雇用しているという事業者さんもいらっしゃいますし、法令の範囲の中で、たくさん働いてしっかり稼ぎたい人用のシフトを用意するなど、多様な働き方を提供することを考えてもよいと思います。
また、資格取得の費用提供だけではなくシステム導入のための補助金を国が一部補助していますので、これらを積極的に使ってほしいですね。働き方認証制度というものがありますが、こちらを取得すればハローワークで求人を掲載する際に優遇されるなどのメリットもあります。
自治体からは「どのような補助金があればよいのか」と質問を受けることもあります。トラックドライバーは地域に関係なく働き方は共通しており、全国どこに拠点を移しても働くことができる仕事ではないかと思うので、たとえば、出身地に戻るUターンだけでなく、出身地とは別の地域に移住するIターン、出身地から別の地域で働く人が更に異なる地域に移住するJターンなどを希望する人達を受け入れられるよう、定住のため訪れるための滞在費や実際定住するための住宅費支援などは、国ではなく自治体だからできる補助金の使い方だと思い提案しています。
このような関係者に役立つ支援や、労働環境の改善、賃金の向上、そのための原資となる適正運賃の収受などが実現していくよう、これからも関係者の生の声を聴くことを継続して、それらをより契約関係の上流にいる方などに適切に届けられるように努めていけたらと思っています。
(text by Yuka Shingai)