キチナングループ株式会社 井本 健代表取締役インタビュー後編。2024年問題に対する所感、ともに仕事をする仲間への想いなどをお伺いしました。
ー2024年問題を筆頭に、運送・物流業界は多数課題を抱えています。事業規模の大きいキチナンさんが、現状懸念していることや、逆に前向きに捉えていることはありますか?
井本 健代表取締役(以下、井本):マクロの話でいうと、1990年にいわゆる物流2法、貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法の改正があり、新規参入が容易になりました。運送会社の数が増え、日本国内であらゆるものづくりが行われ、運ぶ荷物も増えて競争が生まれていた成長期に規制緩和を行ったのは正しい判断だったと思います。
一方、グローバル化が進んで、サプライチェーンにも変化がある中で、運送会社の数はほぼ横ばいで変わっておらず、需要と供給のバランスが崩れつつあることは実感しています。私がこの業界に入った頃から、荷主さんに対して、どこまで適正運賃をいただけるかというのは本当に難しい問題でしたし、その結果、なかなか人件費も上がらない状況が長く続いていました。今回、2024年問題としてスポットライトが当たったことで、ようやく是正されてきたことは喜ばしいことですし、良い方向に向かっていると思います。
これまでは物流の会社だから仕方ないよね、ドライバーだから長時間労働も仕方ないよね、みたいな向きがありましたし、今も部分的には残っていたりもするのですが、少しずつ是正されていけばと思っています。
ただ、2024年問題と騒ぎすぎると、「物流業界ってすごく大変なんだ」と若い人たちに敬遠されてしまう懸念もあります。ですから、業界全体として興味を持ってもらえるような情報発信や、取り組みを考えて行かなくてはいけないですね。
ーここさえ押さえれば万事解決!というわけではなく、地道に行動するしかないでしょうか。
井本:大きく変化を起こしてくれるものとしては、個人的には自動運転には希望を感じています。国土交通省なども様々なプロジェクトを推進していますし、全ての荷物が100%自動運転で運べるわけではないにしても、地域として求められる物流と並行して、技術を上手に使いこなすことが求められるのではないかと思います。
最近は、タクシーなどもライドシェアについて議論が進んでいますよね。トラックのように車が大きくなればなるほど、安全性の担保もより重要な課題になっていきますし、社会的な責任も大きくなりますが、その上でどんどん進めていかなくてはいけないなと考えています。
ー経営者として、従業員の皆さんへの関わりで意識している部分はありますか?
井本:私たちが掲げるバリューとして、お客様のために、という考えを大事にしようとは常々話しています。それって誰のためになっているの?お客様のためになっている?という話はよくしています。もう一つは、自分の仕事に誇りを持ってほしいということですね。
従業員の多くは、自分自身の仕事に誇りを持ってくれていますが、必ずしも全員がそうではない時機もあります。だとしても、全ての従業員が社会の価値になっていると私は思っているんです。日々、お客様から運賃や、倉庫料をいただけるのは、価値を感じているから対価を支払ってくださっていると思うんですよね。そこで価値を提供できているんだよということを私は伝えていきたいです。
今日仕事がいただけたから明日も仕事があるというのは当たり前のことでは決してないですよね。ですから、目の前にあること、その時々、一瞬一瞬を大切にすることを重視しています。
(text by Yuka Shingai)