運賃や給与、価格交渉は進んでいるの?山口県トラック協会主催意見交換会レポート③

物流業界の「2024年問題」にまつわる意見交換会レポート第3回は、気になる給与、運賃といったコストの課題をクローズアップします。

運送事業者としての実感をヒアリングするほか、調査結果からは意外な事実が明らかになりました。

意見交換会の参加者

  • 国広 和之会長(一般社団法人 山口県トラック協会)
  • 毛利光 伸二専務理事(一般社団法人 山口県トラック協会)
  • 田中 幸久課長(国土交通省中国運輸局自動車交通部貨物課)
  • 藤井 利佳山口運輸支局長(国土交通省中国運輸局)

意見交換会レポート①では、運送業界は一般の企業態と比較して、賃金が2割ほど安く、運賃、価格交渉が進んでいない側面があることを伝えています。

山口県トラック協会会長を務める、国広倉庫運輸株式会社 国広 和之 代表取締役に、この背景を解説してもらいました。

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国広さんいわく、1992年に当時の運輸省(現・国土交通省)により施行された「物流二法」は運送業界に大きなインパクトを与えたとのことです。運送業を免許制から許可制とする規制緩和が行われ、運賃も、それまでの認可運賃制から事前届出制に変更となりました。

「規制緩和により運送業者の数は1.5倍に増え、価格競争が起こりました。当時はバブルがはじけた後でもありましたし、減少する貨物を取りあうことで値崩れを起こしたのは、業界全体の責任だとも感じています。

また、私たちの業界は99%が中小企業です。下請け、孫請けのような多重構造も散見されますし、運賃に関して大手がイニシアチブを持っている以上、中小企業がなかなか声を上げづらい実態もあります。」

価格交渉が難航していた30年あまりを経て、「物流2024年問題」としてフォーカスが当たったことを、国広さんは好機と捉えています。

「以前は運賃を上げてほしいと交渉しても、なかなか話も聞いてもらえませんでしたが、現在は荷主にも物流の安定継続に対する危機感を共有していただき、コスト面だけでなくドライバーの労働時間短縮や作業負担軽減に向けて前向きに改善を検討していただけるようになりました。

ブース予約制による待機時間の短縮、パレット一貫輸送による荷役作業負担軽減、物量の平準化による安定運行、リードタイム延長による積載率向上等の改善が進みつつあります。

なかなか運賃に関しては、国の標準的運賃には追い付いていないのが現実ですが、ドライバーの地位向上を目指すための人件費アップや車両費や燃料費の高騰が続く中、継続的に、効果的に考えて行かなくてはいけないですね。

『2024年問題』というと、とても深刻な響きですが、本当はチャンスなんだと思っています。成功事例を共有する発表会なども行い、誰にとっての問題なのか、解決したらどんなメリットがあるのかをよく考えて、しんどい時だからこそピンチはチャンスとなるのではと思いますね。」

国土交通省 中国運輸局自動車交通部貨物課 田中 幸久課長は、物流業界の環境改善を推進する「トラックGメン(現:「トラック・物流Gメン」に改称)」としての顔も持っています。

Gメンとして、運送事業者やドライバー、荷主の皆さんと会話する中で、気づいた事があるようです。

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「運送事業者に対して、荷主が悪いことをしたら、監査して処分して、罰を与える、トラックGメンとはそのような存在と捉えている方もいるかもしれませんね。

だけど、我々が動き過ぎることで荷主を失ってしまうことになると運送事業者はより苦しくなってしまうわけですから、荷主と運送事業者、両者の関係を改善することが私たちの目標です。

とは言っても、”こちらが運賃を高くしたら、競合が入り込んでくるかもしれない”と意識するあまり、過剰に価格競争することで、貨物の量が増えて、トラックが請負う物量も増えても単価が安い…では利益は上がりませんよね。

値上げって、払う側からすれば負担と感じてしまうかもしれないけど、”それが労働者にちゃんと流れれば、労働者に購買力もつき、消費が増えて収入も上がる“と、プラスの方向で考えられるべきじゃないかと思うんです。

コストを相手に押し付けている、負担させていると捉えると、マイナスのイメージでしか伝わらないですから。売価に値上げ分を乗せたものを負担すると、回りまわって自分の商品が売れて収入が増えるっていうイメージを持って貰えたら良いのではと思います。

それも運送事業者だけ、荷主だけで納めるのではなくて、関係者全員が一気通貫でこのイメージを思い描けることが理想です。『運賃が上がると、こういう結果になる』」と理解できるのが良いと思います。物資を循環させることで環境を改善するエコシステムのように。そうしたら上手くお金が流通して経済も好循環になるのではないかと思います。」

また、田中さんは講演やオンライン説明会を開催するにあたって、必ず参加者に事前にアンケートを実施しているそうですが、回答結果には共通して興味深い傾向が表れるそうです。

荷主に対しては「何を基準に運送事業者を選んでいますか?」、運送事業者に対しては「荷主から何を評価してほしいですか?自分たちの売りはなんですか?」と質問する項目を設けています。回答に共通するのは荷主、運送事業者のどちらも「貨物が安全に届けられること」を最重要視していることなのだそう。

どちらも「運賃が安い」は最優先ではなく、荷主は「貨物を安全に継続して運んでほしい」、運送事業者は「そこを評価してほしい」という同じ軸に立っているようです。そしてその次には「長期的に付き合えるか」を重視しているのだとか。

商売を長く続けて、従業員を食わせていきたい、という想いは双方に共通しています。それなら、いかにタッグを組んで長期的に経営を続けていくか、お互いが腹を割って話せればよいのでしょうが、コミュニケーションがうまく交わせていない部分があるようです。

運送事業者さんには、自分が荷主と長期的に付き合えるパートナーであることを売りとしてほしいし、そのためには何を工夫しているのかを見える化していく必要があります。その好事例を私たちもどんどん取り上げていきたいですね。」

(text by Yuka Shingai)