物流業界の「2024年問題」にまつわる意見交換会レポート第4回は、目下、業界全体の大きな課題となっているDXがトピックです。業務の効率化や省力化に繋がる一手はあるのでしょうか。現時点で、運送事業者に促せるような施策があるのか気になるところです。
意見交換会の参加者
- 国広 和之会長(一般社団法人 山口県トラック協会)
- 毛利光 伸二専務理事(一般社団法人 山口県トラック協会)
- 田中 幸久課長(国土交通省中国運輸局自動車交通部貨物課)
- 藤井 利佳山口運輸支局長(国土交通省中国運輸局)
トラックは乗り物であり動くインフラ。DXはまだこれから
国土交通省 中国運輸局自動車交通部貨物課 田中 幸久課長いわく、DXと一口に言っても、荷主、運送業者など立場ごとに最適なものは異なっており、現状進んでいるのは倉庫での自動化。貨物を機械で選別していく設備や棚ごと貨物を移動するロボットの導入など、マテリアルハンドリング、通称マテハンを自動化する動きはどんどん進んでいます。
一方で、同様の流れをトラックでも生み出せるかは、まだこれからのようです。
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「トラックは乗り物でもあるし、インフラでもあると思うんです。それも物を移動させるのに欠かせない、自らが動く運んで欲しい人達共通のインフラだと思います。
だから、たとえば物流センターの前でトラックが待たされてしまったら、止まっている分だけその時間は他の運んで欲しい人からしたらロスになってしまいます。
トラックを待たせて、貨物を満載するのと、トラックを稼働させて、途中途中でタイミングが合う貨物を相乗りさせて隙間を埋めていくのとでは、私は後者の方が効率はいいはずだと思います。
ですが、タイミングを合わせるための情報共有がスムーズに行えない、商売上の競争もあって、情報を機密と捉え共有できないことであまり進んでいないのが現状です。
トラックへのバラ荷積みも自動で行える設備が存在しています。しかし荷卸し先で荷卸しを自動化する設備がなければ、荷卸しはドライバーの手で行わなければならず、効率化はできません。
自動で荷積み・荷卸しをする設備も高額な投資になってしまうのと、汎用性について全ての貨物のサイズに対応できないなど需要にマッチしないという課題があり、貨物全ての事業者で導入できるかというとまだ難しいと思います。」(田中さん)
これからは協業がカギ。トラックの積載率を上げていきたい
建設中の新東名高速道路の一部区間で、2027年度中に実施する「自動物流道路」の社会実験も話題を呼んでいます。
また、トラック等の自動車で行われている貨物輸送を、環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換する”モーダルシフト”は、1つの手として有効だと山口県トラック協会会長 国広 和之さんも賛同しています。
「ただし、モーダルシフトが進んでも、貨物を運べるのは駅から駅、港から港で、最終的にはトラックが繋ぐ必要はあります。道路があるところにはどこにでも行くのが私たちの業界ですから。
トラック物流の問題点として積載量の低さがあげられます。平均すると40%程度しか積まないで運行してことが多いんです。先ほど、田中さんがおっしゃったように、待たされた結果、”時間が来たから出発してください”となってしまうんですね。
これまでのようなクイック配送の優先度は下がるかもしれないけれど、もっと貨物を積み込んで、積載率を上げられたら、配送の回数自体も減らせるし、コスト削減にも繋がると思いますね。」
国広さんも、田中さんと同様に、運送事業者間の協力が、今後のカギだと捉えているようです。
「運送事業者と、貨物を運んで欲しい荷主を繋ぐ求荷求車システムは現在もあるのですが、1対1の取引になるんですよね。
貨物をたくさん集めて、トラックも何台か登録しておいて、最適な配車になるように振り分けられる、協業システムに変えていく方がいいと個人的には思っています。
中小企業が多いので、各運送事業者ごとに問題解決するには限界があります。」(国広さん)
情報は、自ら取りに行く。運送事業者にも提案力が求められる時代
また、DX推進を考える上で、重要なのは「ルール決め」であると強調する田中さん。
DXは全てを便利にしてくれる万能な策ではなく、ルールを策定し、それを守るという意識付けについて言及していました。
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「荷積み・荷降ろしを行う荷捌き場(トラックバース)の利用を予約・管理するシステムがあるのですが、枠を大きく超える予約が入ってしまうと、人気のある枠に予約が殺到してしまうと、結局、希望の枠を予約できなかったトラックが路上に並んでしまうことになります。病院の予約が取れなかったから月曜日の朝に、患者さんが待合室で順番待ちしてしまうようなものです。
あと、倉庫の床に貨物があふれるような発注を抑制するなど、荷主の中で経営、営業、物流が上手く連携して風通しを良くする必要もあると思います。
誰かの都合でシステムを動かして、他の誰かの不利益にならないように、ルールを決めて全員で守る必要があります。
たとえば、私たちがスーパーの開店と同時に商品が買えるのは、それまでにドライバーが店舗に貨物を運んでくれるからです。荷主の決めたスケジュールに間に合わせるために、夜暗いうちに稼働し、前日又は稼働後早朝に市場、惣菜工場などから貨物を積みこんで、物流センターに貨物を届け、さらにそこから各店舗に別のトラックが配送のため走っているわけですよね。
ただし商品の中には、卵や牛乳のような日配品、オープン時に揃っている必要のあるものと、そんなに急がなくていいものもあるはずだから、後者は配送の時間をずらすという手もありますよね。
ですから、運送事業者さんも荷主さんに無理に合わせるのでなく、”こういう配送が実現すれば品数が減る分パートさんも開店前の作業が楽になると思いますよ。うちはそれができますよ。”など経験に基づいた働きかけができるのではないか。それが運送事業者の腕の見せどころになるのではないかと思います。
貨物の情報を荷主さんからもらうだけではなく、いかに自分たちからつかむか、提案するかが、これから運送事業者さんには求められる気がします。」(田中さん)
(text by Yuka Shingai)