物流2024年問題、一般生活者が知っておくべき情報は? 山口県トラック協会主催意見交換会レポート⑤

物流業界の「2024年問題」にまつわる意見交換会レポートでは、これまで物流、運送業界の現状や課題についてお伝えしてきました。日頃、トラックドライバーのお世話になることも多い、一般生活者が知っておくべき情報や、課題の解決の一助となれる方法はあるのでしょうか?リアルな声をお届けします。

意見交換会の参加者

  • 国広 和之会長(一般社団法人 山口県トラック協会)
  • 毛利光 伸二専務理事(一般社団法人 山口県トラック協会)
  • 田中 幸久課長(国土交通省中国運輸局自動車交通部貨物課)
  • 藤井 利佳支局長(国土交通省中国運輸局山口運輸支局)

ー本日の意見交換会を前に、アンケートを実施しました。「『2024年問題』に対して、個人的に対策を取っているか」と質問すると、「再配達が発生しないように、日時や時間を指定する」「置き配指定をする」「運送業者のLINEアカウントから通知されるようにする」などの回答が散見されました。これらの対策は運送事業者視点では助けになっていますか?

国広 和之 山口県トラック協会会長(以下、国広):再配達をしないようにしようと一般消費者が理解してくれたことはありがたいですね。当社は宅急便を扱っているわけではありませんが、そのウェイトは運送業界の中でそう高くはないのですが、消費者に意識が向いたのは良い成果だと思います。

田中 幸久 中国運輸局自動車交通部貨物課長(以下、田中):消費者が消費する条件は、必ずしも全て消費者が決めているわけではないですよね。5,000円のものが3,000円になっても、10,000円のものが5,000円になってもバーゲンはバーゲンだし、同じものだったらより安い方を選んだ結果、とめどなく値段は下がっていきます。

ですから、健全な経済を維持するためには、どこかで売価が下がり過ぎないようにしないといけないんですよね。そういった条件の中で、少し高めの価格のバーゲンが実施されても、賃金が上がり購買力がつけば、消費者は納得して消費してくれると思います。

ニュースでは「〇月から何千品目の価格が上がります」とよく報じられますが、皆不満を言いつつ仕方がないと受け入れざるをえません。それに対して、運賃が上がることには「どうして?」と反応し、応じない荷主もいる。それは安すぎる運賃が残っているため相場が適正化しないからなんですよね。

どの企業も適正に原価分を価格に転嫁することで購買力を自社の労働者に与え、消費行動を促すチャンスなのに、運送事業者同士が競争して運賃をより低く抑えていることで、現状が安すぎるままになっているんです。下限運賃や強制運賃を設定して、国が「これ以上下げたらダメ」と言おうにも、運賃は自由化されているので、そこまでは口をはさめません。

消費者の行動に影響する施策として、置き配の推進もありますが、2024年10月から実施している「置き配ポイント」事業では、置き配やコンビニ受け取りなど消費者が再配達を減らす受け取り方法を選択すると、1回の配送につきポイントが還元されます。これにはポイント付与の原資として補助金が投入されていて、ビジネスとして成り立つための呼び水として活用されています。補助金には限りがあります。政府としては、これを機に、「ポイントのあるなしに関わらず、置き配やコンビニ受け取りが便利だし選択肢になる」と思ってもらえることを目指しているんです。

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国広:たとえば、引っ越しは3月に集中する傾向があり、特に土日祝術は需要があるから料金が高くなりますよね。ホテルも同様にダイナミックプライシングで日祝日の前日の宿泊費が上がります。物流にも繁忙期には値段が上がりますよ、突然、追加や変更の依頼をかけられたら値段が上がりますよ、というルールも今後決めていく必要がありますね。言われたことを何でもこなしていきますってのは無理ですから。

藤井 利佳 中国運輸局山口運輸支局長(以下、藤井):日本人は過去から、付加価値がついているものに対して、各個人の努力で価格に転嫁せず、そのまま据え置きの値段にしてきた部分があるんですよね。それがずっと続いていることが2024年問題の報道により、少しずつ理解を得ていると思います。

改善は進んできていますが、個人的な感想として、いまだにECサイト側で配達日時の指定ができないものも一定数ありますね。購入時に指定できればと思うのですが、一度不在扱いになってしまうこともあり残念です。


また、業界のみならず、国全体で2024年問題に取り組みますという報道は春先には多かったけれど、少し薄れてきている部分もあるので、今後もマスコミに取り上げてもらえるような取組に注力したいですね。

国広:欧米では物流が学問として扱われていて、大学で学ぶものになっています。日本だと、会社の中でも「これはいくらで運べるの?」というコストセンターの位置づけなんです。

欧米はプロフィットセンターといって、「この物流をうまく回せば、原料の購入から製品の販売、リサイクルまでうまく回って、在庫も最適に抑えられる」という風に考えられていて、日本での位置づけとは少し異なります。物流部が「ちょっとでも安い運送会社にして、コストを下げたい」という考えに合わせていると、なかなか変わらない難しさもありますね。

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田中:私は今、単身赴任で広島にいるので、こちらでは名産の牡蠣が安く手に入るのかな、関東の実家では広島と比べると高いんだろうと思っていて、実際に千葉で値段を調べたことがあるんですが、ほとんど額が変わらなくて驚きました。たとえばピーマンだったら広島では宮崎産のピーマンをよく目にするのですが、売価が100円以下のときもあれば、200円近いときもあります。一方で名産のマンゴーはピーマンよりも値段が高い水準で維持されていると思います。

そこから、需要と供給のバランス、季節などどのような条件が売価に影響を与えているんだろうと考えるようになりました。距離が遠ければ遠いほど輸送コストはかかるはずなのですが、輸送費が売価にどのように影響を与えているのかが良くわからないのはなぜなんだろうと思います。

生産地と消費地の距離で売価が変動すると、遠くの生産地は競争で不利になってしまうから、色々なものの値段の付け方で調整が行われているのかもしれないけれど、物流のコストがあまりにも見えないことで、届ける大変さも消費者に伝わりにくくなっている気がします。

(text by Yuka Shingai)