日々、ハードワークをこなすトラックドライバー。長距離輸送の場合は、なかなか家に帰れないなどのイメージもありますが、運送・物流業界でもワークライフ&バランスを考える局面は増えているようです。
物流業界の「2024年問題」にまつわる意見交換会でも、トラックドライバーの皆さんがいかに心身ともに健やかに働けるかという話題が上がりました。
意見交換会の参加者
- 国広 和之会長(一般社団法人 山口県トラック協会)
- 毛利光 伸二専務理事(一般社団法人 山口県トラック協会)
- 田中 幸久課長(国土交通省中国運輸局自動車交通部貨物課)
- 藤井 利佳支局長(国土交通省中国運輸局山口運輸支局)
ー働き方改革は現場ではどのように受け取られているのでしょうか?トラックドライバーの皆さんから、意見やエピソードを直接聞いたことはありますか?
田中 幸久 中国運輸局自動車交通部貨物課長(以下、田中):トラックドライバーというと運転など働いている際のイメージが強いけれど、当然皆さんにそれぞれ生活があるわけですよね。近頃はお金よりも時間を大事にしたい人も増えてきましたし、ある男性ドライバーに聞いた話では、これまで夜中に起きて、全国の高速道路を走ってきたけど、結婚を機に、長距離を辞めて地場輸送に従事するために転職したという話も聞きました。子育てにしっかり関わりたいというパパさんドライバーもいます。
国広 和之 山口県トラック協会会長(以下、国広):ワーク&ライフバランスといいますが、ライフもいくつかに分かれてきていますね。夫婦や家族の時間も持ちたいし、自分ひとりの時間もほしいとか、ワークも副業の話が出てきて、どれだけ細分化していくのだろう?と思います。
藤井 利佳 中国運輸局山口運輸支局長(以下、藤井):物流2024年問題が叫ばれ出してから、ドライバーの皆さんは余暇の時間がしっかり持てるようになってきたのですか?
国広:ルールを守れば当然持てるようになっていないといけないのですが、業態によって違うんです。
国広倉庫運輸は山口県内と広島、福岡のみの中距離運行ですから元々、時間外労働も少なくて、時間に関してはあまり変わっていません。長距離は運行形態が変化し始めており、当日に中継ポイントで車両をスイッチして帰ってこられる等の対策を進めています。
藤井:運転した後は、次の運転までの間を空けなくてはいけないことを、逆に厳しく感じるドライバーさんもいるのでしょうか?
国広:休息時間が十分取れることは喜んでもらえると思っています。自分の運行時間は限度内におさめ、その後は車を他のドライバーに預けて貨物の積み込みをお願いする等の工夫をすれば問題はありません。
ただ、自分で積み込みをしないと心配という職人気質のドライバーもいるんですよね。楽しそうに運転しているように見えて、実際は貨物をどこに下ろして、次はどこに駐車して…と常に考えているんです。
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田中:50~60代のベテランドライバー中には、これまで猛烈に働いてきた分、法改正で労働時間が短くなったことで楽になったと感じているという方もいます。ただ、若いドライバーさんからは「仕事量が減るわけではないから、安全のチェックなどが疎かになりそうでこわい」という声もありました。時間が迫っているけれど、この時間に休憩を取るように言われているから作業のキリが悪くて、このまま走らせて大丈夫だろうかと悩んでいる人もいましたね。
国広:労働時間を短くして、運ぶ貨物が変わらなければ、密度が高くなりますよね。
田中:だからこそ荷積みは荷主さんでやってもらうとか、パレット輸送のように効率よく運べるようにしてもらえないと、事故の危険性が高まります。悪いのは急がせた人なのか、事故を起こしたドライバー、運行を指示したトラック事業者なのかと問われたら後者になってしまいます。だけど、無理をさせている人がいるから結果、事故が起こるということもあると思います。
また、ごく少数ではありますが、飲酒運転をするドライバーさんの件数も減っていないんです。アルコール中毒にはよほどのことがないとならないと思う方は多いと思うのですが、そう診断される方もいます。
仕事中は1人で過ごす時間が長い分、孤独に陥りやすく、アルコールに頼ってしまうのだろうか…などその原因が気になっています。これからはトラック事業者さんがドライバーさんをケアしていくことも重要ですね。
埼玉県のトラック共済では、声の状況でストレス度を検知するアプリを導入していると聞きました。また、目安箱を設けて、ドライバーの声を拾い上げて、安全会議で必ず一つは叶えることを課題にしている社長さんもいます。自分の声が活きているんだと感じることで、会社への信頼度が高まり、最近はドライバーさんから内勤のスタッフさんへの感謝の言葉が入るようになったとも話していましたね。コミュニケーションのツールは色々ありますから、アプリやGoogleフォームなどで匿名でアンケートを取るのもいいかもしれません。
ーストレス軽減やメンタルケアのアプローチは様々ありそうですね。
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田中:アメリカでトラックドライバーに支持されているPodcast番組の話もありましたが、誰かの「声」があるのは大事かもしれません。
かつてはドライバー同士が無線で仲間とやり取りしながら、トラックを走らせていた時代もありましたよね。人と話すのは眠気覚ましになるし、AIで会話をつなぐサービスも有効だと思います。ただの応対かもしれないし、一方的に話しているだけかもしれないけれど、相槌を打ってもらって疑似的に誰かと話してる状況を作りだして、1人でキャビンにいる鬱屈とした気分を発散できないかなと思います。
トラックGメン(現:「トラック・物流Gメン」)として話を聞きに行くと、「自分の話を聞いてもらえるとは思わなかった」と言ってくれる人もいますよ。自分のことを誰にも話せない人も多いんじゃないでしょうか。
国広:お届け先でカスタマーハラスメントに遭ったという話も耳にします。荷受け担当の機嫌が悪かったとかで、ストレスを溜めて、会社に帰ってきてから周囲に当たってしまうとか…。
ーPodcastは、他のメディアと比べて、受け手がもっとも愛着を感じやすいコンテンツだという研究結果も出ています。トラックドライバーの皆さんにとって、運転中に寄り添ってくれる存在がいると心強いですよね。
田中:いつでも聴ける、いつでもアクセスできて、この時間にこの声が聴けるっていう感覚が重要なんですよね。1人でできるからこの仕事を選んだ人も、成り行きでこの仕事にたどり着いた人もいるけれど、自分を認めてほしい気持ちもどこかしら抱えているように思います。
国広:「あなたはエッセンシャルワーカーなんだよ」なんて言葉は実はあまり響かないんですよ。
田中:我々が接したドライバーは、「トラックの運ちゃんでいいよ」くらいの感じの方が多い印象ですね。最初は取っつきにくくても、丁寧に話を聞くと、たっぷり話してくれる人もいます。30分話を聞かせてくれませんかと言うと、我々は役所の人間なので最初は身構えられてしまうのですが、10分の予定が1時間になることもざらで、生い立ちから話してくれる人までいます。
それでスッキリした気持ちになったと言ってくれる人もいるので、こうしたドライバーの気持ちをスッキリさせるためのソリューションは何かしらのビジネスにもなるのではないかと思います。福利厚生の一環のほか、運転中にドライバーと会話してカウンセリングを受けられるサービスなども考えられるのではないかと思います。当然安全は確保した上でですが。
ドライバーさんのことを誰かがちゃんと見てるよって意識を与えられたらと思うんです。それがマナーや身だしなみの意識づけにも、イメージアップにも繋がると思います。
毛利光 伸二専務理事(以下、毛利光):現場の声を聞かせてもらうことと合わせて、いかにしてイメージを表に出していくかも、Truck Heroesのメディア事業としても重要だと思いますね。
(text by Yuka Shingai)