法令を遵守しながら、従業員の生活も守るために。キチナングループ株式会社が取り組むDX推進(後編)

キチナンロジスティクス/キチナントランスポートなど、DX推進に力を入れているキチナングループ株式会社。インタビュー後編では、DXの潮流経営サポート部 DX推進室 大和 究彰課長代理に、グループ全体におけるDXの取り組みやその背景、今後の展望などを伺いました。

インタビュー前編はこちら

ー運送業のDXというと、ロボットやドローンの利活用が話題に上ることが多いと思うのですが、キチナングループさんでは、これらをどう捉えていますか?

大和 究彰さん(以下、大和):自動運転などに関しては法整備もありますし、自動運転できる車両をメーカーが発売しないことには始まらない問題ではありますが、「待ち」の状態にならないよう、積極的に情報を取り入れていかねばと思っています。

最近では、自動倉庫を導入されている企業の話は度々聞いています。ただ、当社のお客様は化学工業メーカーさんも多く、パレットに1トンのフレコンバックを積載するような物流に自動倉庫が向いているのかというと、難しいところです。

比較的小型の荷物を大量に捌くような業態なら導入メリットもあるかと思いますが、各社が預かっている荷物に合わせた形で取り組める範囲のDXを推進するのが、今は最善かもしれません。自動倉庫よりも、フォークリフトで積んだほうが、コストもかからずスピードも早いケースもあるだろうと思います。

ですから当面は、当社では人のオペレーションをどう効率化するか、人の効率化のためにどう情報を操作するかに注力する方向になると思います。そこで最適な運用ができるようになれば、ゆくゆくは自動で動くロボットを最小の距離、最低限の情報のやり取りで動かせるようになるのかなと考えています。

一方、生成AIは、荷物を運ぶ機能はありませんが、過去の運送データと請求金額を蓄積して元データにすれば、「A地点からB地点までの運賃の自動算出」など活用できて、これは決して夢の範囲ではないと思います。このあたりは遅れを取らないように自社でも進めていければと思いますね。

ーDXと一言で言っても、ランニングコストや導入コストなども様々ですし、どのように取り入れるかは、業態や扱い荷物で変動しそうですね。

大和:キチナンロジスティクスでは、10年ほど使っていたオンプレミス(自社運用)の運送システムのリプレイスを行い、システムからFAXを送信できる機能の追加開発を進めた実績があります。

また、今後の計画としては、点呼システムの導入を検討しています。キチナンロジスティクスの営業所は、ここ宇部だけではなく下関にもあるのですが、夜間や休日の運行時に、宇部の担当者が下関のドライバーに対しても点呼できることを目指しています。長距離ドライバーは必然的に夜間や休日の運行が発生しますから、コストも踏まえた上で、点呼システムを活用できればと考えているところです。

2024年問題に関しては、トラック内に搭載したデジタルタコグラフを活用して、勤務状況の管理を月次で確認しています。ドライバーに限らず、実績管理は非常に重要で、現状を把握できる状態にしないことには、システムを導入するにも対策の打ちようがないという考えです。

ー課題も含め、今後の事業展開とDXをどのように組み合わせて行く予定ですか?

大和:女性ドライバーを始めとして、家庭の状況を踏まえて仕事をしたい方も増えています。多様な人たちを受け入れ、ニーズに応じた仕事をアサインできるような取り組みを進めて、安心して働いていただくためには、利益を確保して、給与も賞与もお支払いできるような収益体質にしていかなくてはいけないんですよね。

そのためには、データの分析やKPI管理、車両収支、一台あたりの売上、それに伴う経費なども算出する必要がありますし、運転のサポートだけではなく、受注の管理も強化していくことが従業員の安心にも繋がっていくと思います。

ービジネスを持続可能にしていくためのシステム投資や開発も重要になるということですね。

大和:そうですね。2024年問題に対して、経営企画を考慮せずに、とにかく法令を守ろうという感覚でいると、運べる荷物も減っていくし、走れる時間も減ってしまいます。だからといって「利益を圧迫してしまうから、法律違反を承知で走ろう」なんて、あってはならないことです。法令を遵守しながらも、従業員の生活も守る。そのために経営改善にいっそう尽力していきたいですね。

(text by Yuka Shingai)